70歳代のご相談者Aさん。
自分に万が一のことがあった時に残された御家族が安心して過ごせるように、とエンディングノートを活用し、弊社の相談員と一緒に様々な意見を交わしながら生前の相続対策を考えています。
そんなAさんから、ある日このような質問が。
「農地だけを弟に遺贈したいのだけれど、公正証書遺言を作ればできるの?」
Aさんはお父様より相続した農地を持っており、退職後の現在は趣味と健康維持を兼ねて農業を営んでいます。Aさんには娘さんが二人おりますが、共に嫁がれて遠方で暮らしており、将来田畑を維持してくれる人がいないことが悩みの種でした。
Aさんの弟は近所に住んでおり、同居している長男もいるため将来の田畑の維持を考えるとその方が良いだろうとAさんは考え、奥様や娘さんも了承しました。しかし、奥様や娘さんがいるため現状では弟さんは相続人となりません。相続人に当たらない人にも農地が遺贈できるのか疑問に思い、このようなご質問をされたのでした。
農地を相続人でない第三者に遺贈することができるのは、包括遺贈(すべての財産を遺贈する)の場合のみであり、個別の農地を遺贈により取得する場合には農業委員会の許可もしくは届出(地域による)が必要になります。農業人の地位にある人への遺贈もしくは農地の転用目的のある場合の遺贈でなければ許可を得られませんが、Aさんの弟は農業人でなく農地の転用予定もありません。そのため、現状ではAさんの弟さんが遺贈により取得することはできません。
その旨をAさんにお伝えすると「そうですか…」と一瞬残念そうな表情をされましたが、「それでもエンディングノートがきっかけで相続についていろいろ考えるようになって、農地の事も分かって良かったです。何も知らないまま妻や娘が相続することになって後々大変な思いをさせたくないですしね。」と気持ちを切り替えて、今後農地をどのようにしていくのかを改めて考えることになりました。その後の話し合いにおいて近隣で事業を営んでいる農業生産法人への譲渡や、農地転用して太陽光発電設備を設置する案等を検討しています。
世帯状況の変化により農業を営む人がいなくなり、農地の維持管理が難しい方や農地を保有することで固定資産税や相続税の納税負担で苦労をされる方が多くなっています。先祖代々引き継いできた農地をどのようにしていくのか。残されたご家族の負担にならないためにも、早めに検討して準備をしておきたいものですね。