このたび、急逝したお母様のご相続のことでA子さんよりご相談を受けました。お父様はすでに他界され、相続人はA子さんと兄のS男さんです。
A子さんは席にお座りになるとすぐ、以下のようなお話を一気にされました。
―――自分は嫁いだ身であり、実家近くに住む兄夫婦に実家のことを助けてもらう機会も多かったので、父の相続の時には、色々と取り仕切ってくれた兄に全てを任せ、遺産分割手続きの際にも兄に言われる通り、各種書類に署名・実印を押印した。
ところが母の葬儀の翌日。兄から「実家を売っていいか」という連絡があった。「母の突然の死で気持ちの整理もつかない時に、実家売却の話なんて・・・と思わず口にしたところ、兄の奥さんから出た話だということが分かった。私にとって実家は大切な場所、急逝した母のことを思い出にしてしまうことが怖くて、もう少しだけ時間を置いてから行って形見分け等しようと思っていた。亡くなってすぐ、しかも小姑からの話に兄も一緒になっていることがショックで、その後、時間の経過とともにその思いが怒りに変わってきた。もしかしたら父の相続の時も、兄は兄嫁の指示で動いていたのではないか?当時、父の通帳の残高も確認していないし、そういえば避暑地に父が所有していた土地があったと言っていたが、それはどうなったのか?――
元々仲の良かった兄妹だったようですが、兄嫁の一言によって、あってはならない争族になろうとしていました。もしかしたら兄嫁は、先々のことを考えていたのかもしれませんが、相続人以外の方が口を出すには早すぎる段階でした。
普段は、どちらかと言いますと、被相続人の生前の介護などお世話をしていた相続人から何もしなかった相続人(兄弟や甥姪)との間でどのような遺産分割をするべきか、というご相談の方が多くありますが、どのような立場であっても、相手の心の琴線に触れてしまってからでは取り返しのつかないことになってしまいます。
我々は、遺産分割協議にまでは入れませんし、もし相続人の間で妥協点の折り合いがつかない場合は、法律通りに進めていかなければならない事態となります。そうして相続→争続となってしまうのです。
相談員として、いつどのような立場の相続人からご相談を頂くかはお話を伺ってみないと分かりませんが、争族になりそうな場面に直面した時には、特に注意が必要かと思われます。
※争族は、相続の造語です